タグから検索

ブリッジ剥がれ修正 Ovation YAMAHA

気温が上がると多くなる修理の一つに"アコースティックギターのブリッジ剥がれ"があります。

殆どの場合、弦の張力に接着がついていけず、ブリッジが剥がれます。

高精度・高剛性に製作されている個体程発生の可能性が下がりますが、量産個体ではほぼ全てのメーカー・モデルに潜在的に発生する症状でもあります。 ブリッジを完全に剥がしてみると…

この様な状態は極端ですが。 塗装に直接ブリッジが接着されている場合があり、そもそも接着剤が効いていない箇所もちらほら。 本来はブリッジの形に合わせて塗装を除去する(そもそも乗せない場合が殆ど)のですが、低価格なモデルには工程の簡略化の為、よくこのような手法が取られています。

木材の接着をより強固なものにするには、それなりの手順・手法を選択する必要があります。 要は、「剥がれない様に接着する」事が大前提なのですが、コストの面から、そうはいかない事も有るのかもしれません。 冒頭で「夏場に発生しやすい」とお伝えしましたが、気温により接着剤が軟化しやすい事が主な原因です。 炎天下で車内に放置する等、うっかりやってしまいそうですが、夏場には車内温度が70〜80℃まで上昇する事も有り、当然楽器には過酷な状況となります。 軟化した接着部付近を持ち上げる様に弦の張力が掛かっている事をイメージしていただければ、あっけなく剥がれてしまう事がお分かり頂けると思います。 接着工程が甘く仕上げられた個体のブリッジがこのような環境下に置かれた場合、どうなるかは想像に難くありません。 ※「夏場におおい」のはあくまで傾向として多く発生しますよ!という事です。 弦がブリッジ付近のボディを引っ張る力は季節問わず一定ですので、張力に負け変形したボディにブリッジが付いて行かず剥がれる症状は通年で起こります。 しばらく演奏しない時には、チューニングちょっと緩めて(ペグ1周半程度)保管を心がける事をお勧めしています。

ノミ・スクレーパー・ペーパーで接着面の塗装除去と平滑面を整えます。 ブリッジ底面も同じく。 ブリッジ剥がれを修正する場合、一部の例外を除きこれらの工程を経て木材同士を接着し、強度を増します。 一部の例外とは…↓

オベーションです。

極端に高い弦高をどうにかして欲しいとのご依頼でお預かりさせていただいたオベーション。 問い合わせメールの時点で、十中八九ブリッジ剥がれであろうと予想していましたが、案の定。

ブリッジ面積の約半分、一番負荷がかかる部分の接着は完全に剥がれています。 このオベーションというメーカー。 色々な考え方があるでしょうが、個人的には通常の手法を取れないメーカー(ブリッジ剥がれ以外の作業に関しても)

と位置付けしています。 バック材に"リラコード"と言われる、楽器には使用されてこなかった材(FRP?)を使用している事は有名ですが、その他にもオベーション独自の解釈による設計がいたるところに盛り込まれています。 アコースティックギターとはこうだ!という枠を飛び出した異端児的な考え方は面白くもありますが、それが故に普通では考えられないような症状の発生があることも事実。 その修正を行う際にも、他のメーカーと同じ段取りで作業に臨むとエライ目にあうのがこのオベーションというメーカーです。 画像を見ていただくとわかりますが、上でご紹介させていただいたYAMAHA APXと同じく、ブリッジ下部の塗装は除去されていません。 ブリッジ底面の接着剤もしっかりと効いていた様な感じはなく、「一応ひっついていた」くらいの雰囲気。 このモデルのブリッジ、実は物凄く効率的な(?)考え方で接着されています。

パールドットをハンダゴテで温め

除去すると

プラスネジが。

アンカーボルトです。 アジャスタブル仕様のGibson j-45など、アンカーボルトでブリッジ剥がれを抑制している個体はそこまで珍しくないのですが、塗装の切り欠きが全くないモデルでこの手法が採用している有名メーカーはオベーションくらいの物。 「コストダウンの為、楽して剥がれない方法を模索した結果…?」と思っていた時期もあったのですが、「ユーザー印象の良くないコストダウンを、こんなにもわかりやすい形で示し残すかな…」と疑問が残っていました。 回りくどくなるので簡潔に述べたいと思いますが、まとまらない文章にお付き合いください。 僕なりに考えた結果… 「塗装に直で乗っているブリッジも、アンカーボルトも、全部ワザと!というかそうするしかない!」 という結論に至りました。 ※オベーション全てのモデルに当てはまるわけではありません。あくまでそういった考え方で製作されたモデルがあるという事。リペアの特性上、設計時の考え方の大筋に沿った作業をしないといけない状況が生じ、その大筋はこうなんじゃないかな?程度のお話です。 まず、塗装に直で接着されたブリッジの何故?を考えるにあたり、塗装の厚みに着目しました。 そこまで広く語られている部分ではないかなと感じるのですが、オベーションの塗装、特にグロスフィニッシュ(ツヤあり)は物凄く厚く塗装が噴かれています。 感覚的には通常の2倍〜3倍ほどの厚み。 さらに、非常に硬く、木材への定着(食い付き)が物凄くいい。 この塗装を「綺麗に」除去し、接着面の木地を露出する事は不可能に近く、量産個体では絶対に採用されないであろうと思います。 では、何故薄く吹かないのか、薄く吹けばブリッジの接着も簡単、塗装工程も簡略化できるのに… この疑問には内部構造に着目しました。 オベーションの特徴として、ボディトップにほぼ直線状に配置されたブレーシングがあります、Xやラダーブレーシングのような横方向へボディを横断するようなブレーシングが極端に少なく、どちらかといえばクラシックギターのファンブレーシングに近い構造に設計されており、この独特のブレーシングによりボディTOP面が弦の張力により歪みやすい(波打ちやすい)というウィークポイントを抱えています。 ブレイシングの配置はその楽器の音のキャラクターを決定する上で非常に重要な要素を占めますが、同時に補強の意味合いも含んでいます。 TOP材とは別に独立した木材を貼り付ける事により、弦の張力に耐える強度を生み出し、変形を防いでいます。 先に述べたようにオベーションのブレーシングには横方向の支持がほぼ無く、もちろん程度の違いはありますが、経年により波打ったようにTOP面が変形する場合が多くあります。 こちらもクラシックギターと同じスルータイプ(ブリッジ自体にボールエンドを引っ掛け弦を張る)のブリッジですので、ボディ正面向かって上下方向へ弦張力ストレスがかかりやすい事も"縦"のブレイシング配置を採用した理由かもしれません。 TOP面が変形しようとすると、TOP面に接着されているブリッジにもストレスがかかります。 ブリッジはTOP面の変形に関わらず平らで居ようとするので、結果的に耐えきれ無くなったブリッジ接着面が剥がれてしまいます。 ここでアンカーボルトなのですが、接着剤とは別にブリッジをボディTOPに留める力が生じている事になるので、接着面の剥がれの発生や進行をある程度抑制する事ができます。 硬くて厚い塗装、定着も異常に良い…ブリッジ直接着…アンカーボルトで固定… うーん… … … 「…塗装で補強してるなこれ!」 内部構造の耐久性不足を硬くて分厚い塗装で強化しておるぞオベーション! 合点がいきました。 そこで問題になるのが。 「ブリッジ下の塗装除去しちゃうとマズイなこれ…」 補強の為に重要な要素であるかもしれない、恐ろしく厚く硬い塗装を除去してしまっては強度が失われるのではないか。ただでさえ変形しているTOPが、正規の手順で行った修正により取り返しのつかない状態になってしまうのではないか。 という事を考えました。 長くなりましたが、そんなこんなでオベーション(一部モデル除く)は通常のブリッジ剥がれとは異なる方法をとります↓

まず、剥がれたブリッジ付近を研磨し、剥がし作業でどうしても付く細かな傷をとります。

バフ掛け。 接着面もろともグロス仕上げにします。

ブリッジを接着する部分を残し、周囲をマスキングし保護。

♯120のペーパーで接着部全体に傷を入れました。 "足付け"と言われる作業ですが、接着や塗装を行う際、接着対象同士の食い付きを良くする重要な作業です。 製作された状態では足付け作業が行われていない状態で接着していたらしく、塗装に接着剤(エポキシ系) が食っていない部分がたくさんありました↓

ブリッジは木材(ローズウッド)。 木目があるので足付けせずとも接着剤が食い為か接着剤の残留は見受けられますが、ボディTOPには全く乗っていない部分がちらほら。

ブリッジ底面も♯120で研磨、少し歪みが出ていたので修正も同時に行います。 木目方向に対し、45度斜傾した傷を付けるようにしています。 表面積を増やし、接着に使用するエポキシ系接着剤が充填される隙間を増やす目的があります。

エポキシ系接着材。 2種を混合し、化学反応で硬化させるタイプの接着剤ですが、よくある5分硬化や60分硬化の物は使用しません。

24時間硬化の物をドライヤーで強制加熱し接着に使用しています。 ドライヤーで軟化させ全ての溝に接着剤を行き渡らせると共に、温度を上げることにより化学反応を促進し、初期硬化を早め接着能力を上げます。 ここまで書いていて自分で驚いたのですが、接着中〜完成の画像を用意し忘れてしまいました… 先日納品させていただき、大変満足頂いたとだけ…!! ちなみに、接着強度を上げる手順を踏み接着を行いましたが、コスト面で非常に高額にもなるTOP面の狂いに対する補強等は行っておりませんので、アンカーボルトは再利用。 緩みが起こると機構的にまずいので、純正にはないダブルナットで固定し納品させていただきました。 余談ですが、分厚い塗装で強度稼いで他で無理するくらいなら、内部構造変更すればいいのに。 と思いオベーションに関して調べると、最近のモデルはXブレーシング(しかもスキャロップド)が採用されているみたいです。 さらに、Xブレーシング採用モデルにはアンカーボルトも打たれていない様。 もしかすると塗装も薄く噴かれているかもしれません。 なんやねん! とおもっていたら2000年後半にフェンダー傘下になったんですね、知らなかった。 その際にラインナップが見直され、大きく仕様変更がなされたとありました。 いやこれあかんやろ!とフェンダーさんが言ったかはわかりませんが、良くも悪くも纏まったのかな、と思います。 ご利用いただき誠にありがとうございます! ごお満足頂ければ幸いです。